東京高等裁判所 昭和26年(う)4618号 判決
麻薬取締法第四条第三号にいう「所持」が同法第三条第一項にいう「所持」とその意義を同じうすること、まことに所論の如くであるが、その「所持」とは動機、目的又は事由の如何を問わず、麻薬を事実上の支配内に置く一切の場合を指称するものと解すべきであつて、すでに麻薬に対し事実上の支配を設定したと認め得られる関係ある限り、その支配が所有の意思を以てなされたかどうかというがごときは、右「所持」の成立に何等の消長を来すものではない。さて原判示事実を原判決挙示の証拠と照合してみるに、被告人は神田竜一等から販売方の依頼を受けて受け取つたヘロインを東京都杉並区高円寺一丁目四六五番地神山茂方に持つて行つたというのであるから、たとえ短時間とは言え、右ヘロインに対して事実上の支配関係を設定したことは明らかであつて、この事実の認められる限り、被告人が神山方において販売せんとする意思を抛棄したからといつて、右ヘロインに対する被告人の「所持」の消滅するいわれはなく、又これを否定すべき筋合ではない。従つて、これと同一の見解の下に被告人の判示所為に対し判示法条を適用した原判決の措置はまことに相当であつて、原判決にはいさゝかも刑訴法第一条の精神に反するというが如き跡も見出されない。
従つて、論旨第一点及び第二点の所論を採用するに由なく、右各論旨はいずれもその理由がない。
(註 本件は量刑不当により破棄自判)